タナコロンピントンの最後の言葉
1999年12月上旬にその学期の試験をすべて終えた私はクリスマス休暇を利用してタイへ旅行する予定であった。旅行に出発する前日、ガイドブックの中の地図をコピーするために私は学校の図書館に入った。 まだ学校は試験期間中であったため、図書館の中では何人もの学生が机に向かっていた。その中に私の友人のタナコロンピントンの姿もあった。彼はタイの電話会社から派遣されてこの学校の修士過程に在籍していた学生であった。この学期で学位の取得に必要とされる授業をすべて取り終わり、私がタイ旅行を終える12月の末にタイに帰国する予定であった。 もしかするとタナコロンピントンと会うのはこれが最後になるかもしれないという思いが私の脳裏をよぎり、私はとても感傷的な気分になっていた。彼といっしょに英語のクラスに出席したり、タイ・レストランに連れていってもらったりしたことが昨日のことのように感じられた。これが彼と会話をする最後になるかもしれないと考えながら私はタナコロンピントンに話かけた。 「明日から予定通りタイに行くんだけど、どこに行ったらおもしろいかな?」 タナコロンピントンはタイ全土に出張旅行をしているので、タイ旅行について詳しい。この質問はこの場面では最適の話題のように私には思えた。 「バンコクからちょっと遠いから時間があったらだけどな、チェンライがいいぞ。チェンマイじゃなくてチェンライだ。ちょっと貸してみな。」 私の手からタイのガイドブックを受け取るとタナコロンピントンはチェンライのページを開けて私に示した。 「ほら、こういうのがあるんだ。」 そこにはタイ版のえびす様とでも言うべき大仏がにかにか笑っている写真が載っていた。 「そんな遠いところまでこんなでぶのブッダを見るために行きたくないよ。」 「お前、何笑ってるんだよ。いいか...」 と言いながら、えびす様のおなかを指差して、 「このおへそにな、コインを詰めるんだ。」
まじめな顔で次々にかますタナコロンピントンに、私は惜別の念を禁じ得なかった。図書館では大勢の学生が勉強していたため、私は大笑いするわけにもいかず息が詰まりそうだったよ。 |
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ニューヨーク スカイライン(2002年3月31日)
FINAL WORDS
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